南部裂織保存会作品集 第1集より 菅野暎子作
はるか二百の歳月の、南部の里に息づきし、
たつきの手技、機織りの
家族のために筏を打つ、トントン、トントン刀抒打つ。
山のばっけ(蕗の蕾)も顔を出す。
江戸は中期に明治へと、母から娘へと引き継がれ、
どこの里にも炬燵掛け、カナ糸赤く綾なして、
手触りぬくき、裂織(さがおり=方言)よ、母の手触り児を包む。
戦争終わって世は平和、一度は廃れた機織りを、形見の帯の感動で、西へ東へ訪ねては、はたご婆さん捜し出す。
教えを請うて押し掛けて、手取り足取り伝授さる。
三ととせかけて覚え込む。
「お経の経は、たて糸で、心はまっすぐ持て」という。
緯(ぬき)(横糸)とは人の生き方で、
喜怒哀楽を織り交ぜて、女の歴史畳み込む。
仕上げたときの虚脱感、何も言えない爽やかさ。
空見上げれば、鳥帰る。